ただし、二一世紀の日本の自動車産業を見すえたとき、国内企業同士の再編劇もありえない話ではない。
「犬が人をかんでもニュースにならないが人が犬をかむとニュースになる」とは、古からいわれた報道のあり方である。
いま他界の自動車業界で、ことによると、そんな事態が起ころうとしている。
GMといえば、押しも押されもしない性界一の自動車企業とされていた。
GMがいつも世界一の自動車企業であるということは、あたかも「犬が人をかむ」ようなものだった。
それだけではなんにもニュースにならなかった。
ところがへそのGMの世界一の座をめぐって、いま人が犬をかもうとしている。
ある面で、GMが性界一の座から転落しょうとしているのだ。
引きずり落そうとしているのが、世界二位のフードである。
これは、フードの意欲というよりは、GMが社内に内包する問題のゆえでもある。
だからこそ、ふたたび奪回するのは容易ともいえるし、しかし内包ゆえに道ははるかともいえる。
以下、業績面、シェアの割合、労使関係から検討してみよう。
一九九九年五月一三日、フードはデロイ・オペラ・ハウスで、九八年度決算の株主総会を開いた。
これは、フードにとって特別に意味のある会合だった。
ひとつには、会長がその年に就任した四二歳のウィリアム・クレイ・フード・ジュニアであり、前から社長だった業者のヘンリー・フード一世の直系の曽孫である。
あの二代目超ワンマン会長H・フード二位のおいであり、二〇年ぶの「大政奉還」だった。
もうひとつは、前会長ロッマン氏の描いた「フードNO計画」がいちおうの成果をおさめて、二〇〇〇年をまたずに一年早く終わったことだ。
これからクレイとナサーのコンビが、どういう戦略を立てるか、興味津々だった。
早くもナサー社長は、「消費者企業」というコンセプを打ち上げた。
「消費者にとってのリーディング企業になりたい」という発想である。
総会後、ナサー社長は内外の記者と会見した。
そのなかで強調したことは、フードはいま社内的要因からも、買収などによる外的要因からも、これまでにない拡大ムードにあるという点だった。
彼は、その買収例として、さる一月、傘下におさめたスウェーデンのB社、ヨーロッパの自動車修理グループ、クウィック・フィット、自動車インテリア関連企業プラスチック・オムニュームをあげた。
と同時に、自動車関連の新ビジネスにも積極的に取り組んでいく意向を明言した。
それがなんであるかは明らかにしなかったものの、「お客がなにを考えているか、それをいち早く理解できた企業のみ、つぎの性紀に繁栄しうる」と、いつもの口調で結んだ。
このナサー社長の発言の裏には、明らかにGMを射程距離に追い込んだという意識があった。
両社間の競争意識には、当然のことながらへ三者の想像を飛び越えたはげしさがある。
九八年一二月、フードは、「わが社の高級車リンカーン部門の販売台数が、九八年はGMのキャデラック部門を上回る見通しだ。
これは、史上はじめてのことである」と、発した。
ところが現実にふたを開けてみると、キャデラックがリンカーンより四七〇〇台多かった。
Gそれから五カ月近くたった五月五日になって、GMは、突然、「実際のキャデラックの販売台数は一八万二〇〇〇台で、リンカーンよりも約五〇〇〇台下回っていた」と発、フードに謝罪するひと幕もあった。
GM調べの販売台数では、リンカーン一八万七一九一台、キャデラック一八万二〇〇〇台へその差は五一九一台だった。
フード調べの登録台数では、一八万六一九一台対一七万九〇〇九台で、その差は七一八二台だった。
どこでどう手ちがいが起きたのかわからないが、両社の販売競争の俄烈さを語っていることは、十分に想像できる。
九九年に、もしフードが売上高でGMを追い越せば、名実ともに世界1の自動車会社になる。
というのはフードは純益で過去二年間、GMを追い越しているからである。
となると、これは一九三〇年代以来、はじめての大事件となる。
人が犬をかんだことに匹敵するのである。
一方、フードも部品事業部ビステオンの売上げ分を、多めにみて二〇億ドルを除かなければならない。
とすると、フードの売上高は一四二五億ドル前後になる。
それに、買収三社(B社二〇億ドル、クウィック・フィッ八億ドル、プラスチック・オムニューム四億ドル)の効果が出ている。
結局、推定売上高は一五五〇億ドル前後となる。
ということは、フードはGMとくらべ三〇〇億ドル以上、上回ることになる。
ただし、これには前提がある。
GMの九九年全世界売上高が横バイであること、GMから分離したデルファイ分が四〇〇億ドル前後であること、フードの本業売上高が九八年と同じ一四三〇億ドルであること、である。
もし、この前提通りにいったとすれば、フードはB社分の売上高を除いても、九九年の売上高はGMを凌駕したことになる。
一方、純益はおそらく昨年通りにGMを上回ることはほぼ確実視されている。
GMはアメリカ国内市場シェア三二%に固執すればするほど、純益率は低下せざるをえないのではないか。
残るは、世界シェアの優位のみとなる。
ただ、これもそうなってくると、時間の問題となっている。
げんにアメリカの調査会社オウファクによれば、二〇〇五年の世界生産は、GM九一〇万台、フード九一五万台と推定されている。
ともに、関連子会社分を含めてのことである。
もちろん生産しても売れなければ、実力にはならない。
それにしてもこの傾向は、世界の自動車産業にとっても、二一世紀を目前にした大異変ということになる。
いま、GMがまちがいなく世界ナンバーワンのステータスを保持しているのは、その莫大な規模である。
九八年の全世界売上高は一六一三億ドル(約二〇兆円)、販売台数七五六万台だった。
これは、新生合併会社ダイムラーC社の水準(一九兆五五〇〇億円、四五〇万台)でも、さすがにおよばない。
トヨタは全社界売上高一〇六二億ドル二二兆七〇〇〇億円)、販売台数は五二八万台であった。
ただし、純益額となると、GMはフードについで性界ナンバー・ツーとなる。
ちなみに、売上高、純益、販売台数をもとに、他界べスト5企業を売上高は販売台数にほぼ比例し、販売台数はだいたいモデル数に比例する。
三社のモデル数(アメリカ市場)は、乗用車がGM三六、フード1六、C社一六で、GMが最大、商用車でも同じ順で三四、一四、十と、GMがまた最大となっている(一九九八年末現在)0さらに注目したいのは、生産されているプラッフーム(卓の土台部分)の数である。
開発費のなかで、もっとも大きな比重を占めるのが、エンジンを除けばプラッフームである。
だからこれをなるべく多くの車種に使えば使うほど、一モデルあたりのコストは安くなり、逆に利益は多くなっている。
アメリカ市場で販売されているモデルを、プラッフーム別(生産)にみると、GMは一四モデル、C社は一三モデル、フードは一二モデルであった。
GMはここでも、ビッグスリーのなかで、最大のプラッフームを保有していることになる(九七年生産上位五〇位を対象)0問題は、ならばGMは、販売面でも最大多数たりえているか、ということである。
そこで、アメリカ市場でのブランド別ベストセラー五位をみてみよう。
九八年の年間販売のべスト5である。
このですぐ気がつことは、GM卓は、乗用車部門で九八年にひとつもなく、商用車部門にひとつしかないことである。
これは、現在のGMにとって、きわめて由々しい問題なのである。
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